訪問看護ステーションの売上・人件費率・利益率の目安|黒字経営に必要な数値
訪問看護ステーションを経営していると、
「毎月どのくらい売上があればよいのか」
「人件費率は何%までなら適正なのか」
「利益率は何%を目標にすべきか」
といった疑問を持つことがあります。
売上が増えていても、人件費や固定費が増えれば、利益が残るとは限りません。経営状態を正しく判断するためには、売上だけでなく、人件費率・利益率・訪問件数を組み合わせて確認することが重要です。
この記事では、訪問看護ステーションの経営で押さえておきたい数値の目安と、基本的な計算方法を解説します。
訪問看護ステーションの売上の目安
厚生労働省が公表した「令和7年度介護事業経営概況調査」によると、訪問看護の令和6年度決算における1事業所当たりの平均月間収入は、約347万6,000円でした。
同調査では、次のような結果が示されています。
| 指標 | 令和6年度決算の平均 |
|---|---|
| 月間収入 | 約347万6,000円 |
| 月間支出 | 約311万8,000円 |
| 月間差引 | 約35万8,000円 |
| 延べ訪問回数 | 約421.5回 |
| 訪問1回当たり収入 | 約8,248円 |
| 常勤換算職員数 | 約8.6人 |
ただし、この数値は介護事業経営概況調査における全国平均です。実際の売上は、職員数、医療保険と介護保険の割合、訪問時間、加算、地域区分、営業日数などによって変わります。
そのため、「全国平均より高いか、低いか」だけで経営状態を判断するのではなく、自事業所の人員規模に応じた売上目標を設定する必要があります。
スタッフ1人当たりの売上目標
スタッフ1人当たりの売上は、次の計算式で概算できます。
1日当たり訪問件数×月間勤務日数×訪問単価
訪問1回当たりの平均単価を8,200円、月間勤務日数を20日として計算すると、次のようになります。
| 1日当たり訪問件数 | 月間訪問件数 | 月間売上の概算 |
|---|---|---|
| 4件 | 80件 | 65万6,000円 |
| 5件 | 100件 | 82万円 |
| 6件 | 120件 | 98万4,000円 |
これは単純計算であり、キャンセル、移動時間、記録時間、会議、研修、有給休暇などは含まれていません。
現場の負担を考えると、単に訪問件数を増やすのではなく、移動距離の短縮、空き時間の削減、加算の適正算定なども併せて検討する必要があります。
人件費率とは
人件費率とは、売上に対して人件費がどの程度を占めているかを示す指標です。
計算式は次のとおりです。
人件費率=人件費÷売上×100
人件費には、基本給や各種手当だけでなく、賞与、非常勤職員の賃金、会社負担分の社会保険料なども含めて計算します。
例えば、月間売上が400万円、人件費が240万円の場合は、
240万円÷400万円×100=60%
となります。
訪問看護の人件費率の目安
令和7年度介護事業経営概況調査では、訪問看護の令和6年度決算における給与費は月額約243万7,000円で、収入に対する割合は70.1%でした。
ただし、公的統計の給与費割合と、各事業所が経営管理に使用する人件費率では、含める費用の範囲が異なる場合があります。
実際の経営管理では、次のような基準を一つの目安として考えます。
| 人件費率 | 経営上の見方 |
|---|---|
| 55%未満 | 利益を確保しやすいが、人員不足や過重労働にも注意 |
| 55~65% | 比較的安定した水準 |
| 65~70% | 売上や稼働状況の確認が必要 |
| 70%超 | 利益が残りにくく、改善策の検討が必要 |
訪問看護は人によってサービスを提供する労働集約型の事業です。そのため、人件費率が高くなること自体が、直ちに経営不良を意味するわけではありません。
重要なのは、人件費率が高い理由を確認することです。
- 開設直後で利用者が少ない
- 採用を先行している
- 休職者や訪問に出ていない職員がいる
- 移動時間や空き時間が多い
- 管理者の訪問件数が少ない
- 加算を適正に算定できていない
- 給与や社会保険料の集計範囲が統一されていない
採用直後など、一時的に人件費率が上がることもあります。単月だけで判断せず、3か月から6か月程度の推移を確認することが大切です。
訪問看護の利益率の目安
利益率は、売上に対してどの程度の利益が残ったかを示す指標です。
基本的な計算式は次のとおりです。
利益率=利益÷売上×100
月間売上が400万円、すべての費用を差し引いた利益が40万円の場合、利益率は10%です。
令和7年度介護事業経営概況調査では、訪問看護の令和6年度決算における補助金を除いた税引前収支差率の平均は10.3%でした。
経営管理上は、次の水準を目安にできます。
| 利益率 | 経営上の見方 |
|---|---|
| 10%以上 | 比較的安定しており、将来投資を検討しやすい |
| 5~10% | 一定の利益を確保している |
| 0~5% | わずかな変動で赤字になる可能性がある |
| 0%未満 | 赤字原因の確認と改善が必要 |
訪問看護では、車両の故障、採用費、賞与、社会保険料、利用者の入院や終了などにより、月ごとの利益が大きく変動します。
そのため、可能であれば利益率10%以上を目標とし、少なくとも5%以上を継続して確保できる経営体制を目指すことが望ましいでしょう。
利益率10%を確保する売上目標の計算方法
利益率10%を確保したい場合、売上目標は次の式で計算できます。
売上目標=総費用÷0.9
例えば、人件費とその他の経費を合わせた月間総費用が360万円の場合は、
360万円÷0.9=400万円
となります。
この場合、月間売上400万円を確保できれば、40万円の利益が残り、利益率は10%になります。
| 月間総費用 | 利益率10%に必要な売上 |
|---|---|
| 300万円 | 約333万4,000円 |
| 350万円 | 約388万9,000円 |
| 400万円 | 約444万5,000円 |
| 450万円 | 500万円 |
| 500万円 | 約555万6,000円 |
売上目標を感覚で決めるのではなく、人件費や固定費から逆算することが重要です。
売上が伸びても利益が残らない原因
訪問件数が増えているにもかかわらず、利益が残らない場合は、次の項目を確認します。
人員を先に増やしすぎている
将来の利用者増加を見込んで採用を先行すると、一時的に人件費率が上昇します。採用後、いつまでに何件の訪問を担当するのかを計画しておく必要があります。
スタッフごとの訪問件数に差がある
事業所全体の訪問件数だけでは、一部のスタッフへの偏りや空き時間を把握できません。スタッフ別に訪問件数・売上・人件費を確認することが必要です。
移動時間が長い
訪問エリアが広いと、勤務時間に対する移動時間の割合が増えます。訪問先の組み合わせや担当エリアを見直すことで、件数を無理に増やさず稼働率を改善できる場合があります。
加算や請求に漏れがある
緊急時訪問看護加算、特別管理加算、複数名訪問看護加算など、利用者の状態や届出要件に応じて算定できる項目を確認します。
ただし、加算は収益目的で算定するものではありません。算定要件を満たしていることを確認し、必要なサービスを提供・記録したうえで適正に請求することが前提です。
医療保険と介護保険を分けて分析していない
医療保険と介護保険では、訪問単価や加算構成が異なります。売上合計だけでなく、保険区分ごとの件数・売上・訪問単価を確認すると、収益変動の原因を把握しやすくなります。
毎月確認したい経営指標
訪問看護ステーションでは、少なくとも次の項目を毎月確認することをおすすめします。
- 医療保険・介護保険別の売上
- 訪問件数
- 訪問1件当たりの平均単価
- 人件費率
- 営業利益と利益率
- スタッフ別の訪問件数と売上
- 常勤換算職員1人当たりの訪問件数
- 新規利用者数と終了利用者数
- キャンセル件数
- 加算収入
- 未収金
- 返戻・査定件数
これらを毎月同じ方法で集計することで、売上低下や人件費率上昇の原因を早期に発見できます。
まとめ
訪問看護ステーションの経営では、売上だけを確認しても、本当の経営状態は分かりません。
一つの目安として、
- 人件費率:55~65%を目標
- 利益率:5%以上を維持
- 利益率10%以上を安定経営の目標
- スタッフ1人当たりの訪問件数と売上も確認
という考え方があります。
ただし、適正な数値は、職員構成、給与水準、訪問エリア、医療・介護の比率、加算、開設からの期間などによって異なります。
大切なのは、全国平均だけで判断するのではなく、自事業所の数字を毎月継続して比較することです。
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※本記事は一般的な経営管理の考え方を紹介するものであり、個別の経営判断、税務・労務上の判断を保証するものではありません。制度や報酬の取扱いについては、最新の通知や関係機関の情報をご確認ください。

